国道8号 歌高架橋のある親不知(おやしらず)はかつて日本有数の交通の難所でした。人々は波をよけながら海岸沿いを通行していたそうです。
今でもすさまじい波と風によって親不知にかかる橋にはたくさんの海水がかかっています。直接かからなくても、海水に含まれる塩分は内陸部まで風で運ばれてコンクリート構造物に塩害をもたらします。また、雪を溶かす融雪剤の主成分も塩であるため、昭和50年に架橋された最初の歌高架橋はかなりの塩害被害を受けてしまいました。
そのため歌高架橋に対し、補修をこのまま続けていくより、塩害対策をしっかり施した丈夫な橋梁に架け替えるほうが経済的であるという結論がくだされ、このたび架け替えられることになりました。
このページでは新しくできる歌高架橋の塩害対策を、塩害のメカニズムを説明するとともにご紹介したいと思います。
塩害で橋が悪くなるメカニズム
なぜ塩分はコンクリート橋に害をもたらすのでしょうか。それは、橋の表面についた塩分がコンクリートの中に入り込んで、コンクリート中の鉄筋をサビさせるからです。
錆びた鉄筋は約2.5倍もの体積になり、鉄筋の周りにあるコンクリートを押しのけます。するとコンクリートは内部からひび割れていきます。
コンクリートにひび割れが出来ると,ひび割れから塩分が入り込むため加速度的に鉄筋の錆は広がり、最後にはコンクリートが剥落してしまいます。
歌高架橋の塩害対策
鉄筋を錆びさせない工夫をすることが塩害対策の目標です。 歌高架橋では主に以下の様な塩害対策を行っています。
塩分が桁の中に入りにくい構造にする
橋桁が橋脚ごとに途切れていた場合、その間から雨水とともに塩分が橋桁の下に流れ込み、橋桁だけなく橋脚も駄目にしてしまいます。 そこで、歌高架橋第2・3工区では5、6径間(径間:橋脚と橋脚の間のこと)と橋桁をつなげ、雨水が入り込むところを少なくしました。
表面含浸材を塗布する
上の図で赤く残った,雨水の侵入を防げきれない橋桁の端部には表面含浸材を塗布します。コンクリートの表面含浸材とは文字通りコンクリートの表面に塗ることでコンクリート内部に浸透し,コンクリート表層部に特定の効果を与える素材です。歌高架橋では吸水防止層を形成する含浸材を使用し,水を弾いて塩害の原因となる水や塩化物イオンの侵入を抑制します。
表面積を少なくする
橋桁でよくある形であるT桁橋だと、表面積が多いため塩分がくっつきやすく、コンクリートの中に塩分が入り込みやすくなっています。それを中空床板橋に変えることによって、表面積を少なくし、塩分が橋桁の表面に残りにくくしています。
エポキシ樹脂鉄筋を使い・コンクリートのかぶりを厚くする
橋桁のコンクリートに侵入した塩分でコンクリート中の鉄筋が錆びるのを防ぐため、橋桁の鉄筋には全てエポキシ樹脂を塗ったものを使用しています。 また、コンクリートの中に入り込んだ塩分が鉄筋に到達しにくいよう、コンクリートの表面から鉄筋までの距離(これを「かぶり」といいます。)を厚くしています。
ポリエチレンシースの利用
鉄筋だけではなく、橋桁にプレストレスをかけるPC鋼材もポリエチレンのシースに通すようにしています。PC鋼材を通すシースは通常金属なのですが、塩分を通さない、耐腐食性・耐薬害性の高いポリエチレンのシースにすることで塩害を防止し、橋桁を長持ちさせます。
工場で橋桁のパーツを製作する
歌高架橋の橋桁のパーツは工場で製作し,現場で組み立てます。海に近い現場で生コンクリートを打設すると、固まる前からコンクリートの内部に塩分が入り込んでしまう可能性が高まりますが,工場屋内で作ることにより塩分がコンクリート内に入り込んでしまうことを防ぎます。
施工上の工夫
設計上、以上のような対策をしていても、実際にできてなければ効果は発揮されません。私たちは以上の点がきちんと施工されているか監督・計測したり,現場施工になるコンクリート部分に不具合が出ないよう,施工中も材料に塩分が入り込むことのないよう、数多くの細心の注意をはらって架橋していきます。
架橋中は地域の皆様,現場近傍をご通行中の皆様にご迷惑をおかけすることも多々あるかと存じますが,ご理解の程よろしくお願いいたします。